大判例

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大分地方裁判所 昭和45年(ワ)624号 判決

原告1 浅野智重

右親権者父 浅野信夫

同 母浅野ウメ子

<ほか一名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 吉田孝美

同 岡村正淳

被告 大分県

右代表者知事 立木勝

右訴訟代理人弁護士 安部万年

主文

1  被告は原告浅野智重に対し、金一、〇三〇、〇〇〇円、およびこの内金九〇〇、〇〇〇円に対する昭和四五年一一月一日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告浅野信夫に対し、金八〇、〇〇〇円、およびこれに対する昭和四五年一一月一日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告らのその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用中、原告浅野智重と被告との間に生じたものは三分しその二を原告浅野智重の負担その余を被告の負担とし、原告浅野信夫と被告との間に生じたものは被告の負担とする。

5  この判決第一、二項はかりに執行できる。

事実

(原告の求める判決)

1  被告は原告浅野智重に対し、金四、三五〇、〇〇〇円、およびこの内金四、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和四五年一一月一日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告浅野信夫に対し、金九〇、四二四円、およびこれに対する同四五年一一月一日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  右一、二項につき仮執行宣言。

(被告の求める判決)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

(原告らの請求原因)

一、事故

原告智重(当時八才)は、同四五年三月二一日午前一〇時ころ、自転車に乗って大分県道別府―安心院線(以下本件県道という)を別府より鉄輪方面に向けて走って来て別府市大畑町一組医師原口利郎方前付近にさしかかった際、道路左側の溝からあたり一面に立ち昇っていた真白い湯煙が急に目の前に吹きつけて視界をさえぎり、そのためハンドルをとられ、摂氏八〇度もの熱湯が流れ本件県道左側に接している幅三〇センチメートル深さ五〇センチメートルの溝(以下本件溝という)に落ち火傷をうけた。

二、責任原因

1  管理者

被告は本件事故当時、本件県道および本件側溝を管理していた。

2  管理の瑕疵と因果関係

本件側溝には、同四四年一一月ころ以降、原口利郎方泉源より八〇度の熱湯が流れ出ており、特に曇や雨の日にはこの溝から立ちのぼる湯気が、あたり一面に立ちこめ、視界をさえぎり道路と側溝との境を不明確にし、交通量の多い本件県道より本件側溝に転落する虞がありそうすれば大火傷をする危険があったものである。

右のような状況の下では、本件側溝に防護柵又は防護蓋を設置するか熱湯を流すのを止めさせる等して事故の防止をすべきであるのに、これがなされなかったのであるから、本件県道および本件側溝の管理には瑕疵があったというべきである(最高裁第一小法廷判昭四五・八・二〇民集二四・九・一二六八)。

この瑕疵により本件事故が発生したものであるから、被告は国家賠償法二条一項により原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

三、受傷の程度

本件事故により原告智重は腹部、臀部、右大腿、下腿足部に大火傷を負った。同原告は直ちに近くの新別府病院に入院して同四五年三月二七日まで入院治療をうけ、同日自宅近くの渡辺医院に転移入院し、同月二九日には同医院を退院し自宅で友岡医師の往診治療をうけた。

同四五年五月三〇日には右火傷は一応の治癒をみたが、右大腿、下腿部に大きな瘢痕型成の醜状を残し、より以上の肉の盛り上りを防ぐために弾力包帯をきつく巻きつけていなければならず、この瘢痕型成はその皮膚面積が広いため、整形手術も不可能であって、後遺症として一生原告らを苦しませることになるであろう。

四、損害

原告らは本件事故によりつぎの損害を受けた。

1  慰謝料

原告智重 四、〇〇〇、〇〇〇円

幼い原告智重は前記一、二記載のとおり火傷瘢痕型成の後遺症をうけ、その苦痛は著しい。この苦痛に対しては右額の慰謝料が相当である。

2  弁護士費用

原告智重 三五〇、〇〇〇円

原告智重は被告に対し損害賠償の請求をしたが被告がこれに応じなかったので、本件訴訟を提起せねばならなかった。同原告は本件訴訟提起維持を弁護士吉田孝美に委任し、着手金・報酬は大分県弁護士会報酬規定の範囲内で三五〇、〇〇〇円と定めた。

3  治療費

原告信夫 三六、四二四円

原告智重の父である原告信夫は、原告智重の本件事故により受けた火傷の治療のため新別府病院、渡辺医院、友岡医師に右額の治療費を支払わねばならなかった。

4  付添料

原告信夫 五四、〇〇〇円

右原告信夫が、原告智重の治療中に必要であったので、付添人亀山節子、浅野洋子、岩槻礼子を依頼し付添料として二二、〇〇〇円を支払わねばならなかった。また原告信夫は右治療中三二日間仕事を放って付添をせねばならなかったが、右期間一日につき一、〇〇〇円の割合による損害をうけた。

五、結論

よって、国家賠償法二条一項にもとづき被告に対し、原告智重に金四、三五〇、〇〇〇円、原告信夫に金九〇、四二四円、およびこれら(弁護士費用の賠償額を除く)に対する本件訴状送達の翌日たる同四五年一一月一日以降右完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する被告の認否と主張)

一、請求原因一、二1、三、四34の事実は認める。同四2の事実は知らない。同二2、四1の主張は争う。

二、管理の瑕疵について

1  道路法四二条一項は道路管理者の管理義務を定めているが、この道路管理は第一義的には、道路面そのものの構造状態について本来の効用を維持し安全性を保持し、それによって一般の交通の安全を確保することを眼目とするものであって、本件道路はその意味においてその形状が完全であり車道として車輛の通行に何等支障のない完全な機能を有するものである。

なお本件溝を側溝と解しても、側溝は道路法三〇条一項七号、道路構造令七二条所定の排水のための施設であって、本件の場合その構造に道路の交通の安全に危険を生ぜしめるような点は全くなかった。

2  本件県道自体には何等の欠陥がないものであるが、他の事由により道路に交通の危険が招来されても、直ちに道路管理者に管理の瑕疵があるということはできない。

道路法四二条は「何人もみだりに道路に木石竹木等の物件をたい積しその他道路の構造または交通に支障を及ぼす虞のある行為をしてはならない」と規定し、他方同法その他関係法規は道路管理者に通路そのものの構造状態を良好に保持することを要求しており、この両者に義務を遵守させることにより交通の安全を確保し両者に責務を分担させているのである(和歌山地妙寺支判昭四五・六・二七交通民集三・三・九五四)。

被告の別府土木事務所は本件県道につき常時パトロール、定期総点検を行い、同四四年一二月一六日本件溝に熱湯を流していた原口利郎に対しその禁止又は温度低下の措置を講ずるよう通告しており、被告のなすべき管理の責務を果している。

また、同事務所員は右通告の際本件溝に温水が流入する地点においては火傷を負う程の温度でないことを確認しており、また常時のパトロールでも特別の危険は察知されなかった。別府市においては他の道路でも湯煙の生じているところが多数あるが、火傷をするような熱湯を流出させている者はないから、本件溝に火傷をするような熱湯が流れているものと予知することはできなかったものである。そして一般人も道路交通に危険を生ぜしめない義務があることは前述のとおりであるから、被告の管理には瑕疵がなかったものというべきである。

三、管理の瑕疵と本件事故との因果関係

本件事故現場に視野をさえぎられるほどの湯煙が生じていたとすれば原告智重はこれに巻き込まれないようにし、事前に自転車を降り、道路端の歩道部分を進行しないようにするべき義務があるのにこれを怠り慢然としかも歩道部分を進行したために本件事故が発生したものであり、右義務が守られておれば本件事故は発生しなかったものである。したがって本件管理の瑕疵と本件事故の発生との間には法律上の因果関係はないというべきである。(東京高判昭四五・四・三〇交通民集三・二・三五四、奈良地判昭四五・三・一六交通民集三・二・三九八、徳島地判昭四六・二・八交通民集四・一・二〇八ほか参照)。

(被告の抗弁)

一、過失相殺

原告智重は、本件事故現場にさしかかった際、前方の道路左側の溝から十数メートルに亘り一面に真白い湯煙が立ち昇るのを見たのであるから、このような場合、その溝に高温の湯水が流れていること、また湯煙により視界をさえぎられるかも知らぬことを予測して自転車を下車する等して右の溝に転落しないように注意する義務があるのに、これを怠った過失により本件事故を発生させたものである。

被告の損害賠償額の決定には原告智重の右過失が考慮されるべきである。

(抗弁に対する原告らの認否)

過失相殺の抗弁は争う。

(証拠)≪省略≫

理由

一、事故と責任原因

請求原因一、二1、三のとおり、本件県道を自転車で進行中の原告智重が昭和四五年三月二一日道路端の本件溝に転落し、そこを流れていた熱湯のため大火傷を負ったこと、本件県道および本件溝はいずれも被告の管理するものであったことは当事者間に争がない。そこで被告の本件県道溝の管理の瑕疵について判断する。

つぎの1、2の事実は当事者間に争がなく、3ないし9の事実は、≪証拠省略≫により認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。

1  本件溝は本件県道に接し巾三〇センチメートル、深さ五〇センチメートルであったこと。

2  本件事故当時本件溝には原口利郎方泉源より流れ出した摂氏八〇度の熱湯が流れていたこと。

3  本件溝の中の熱湯より生ずる湯気は本件県道上に流れ、通行者の視野を妨げることもあったこと。

4  従前より本件事故後に至るまで本件溝には防護蓋も、本件溝と本件県道の間には柵も設置されていなかったこと。

5  本件県道の本件事故現場付近は交通量も多く、通学のために通行する児童も多いこと。

6  原口利郎の所有する湯泉々源は同四四年一一月下旬ころ激しく自噴を始めたので、同人はその温泉の熱湯を同人宅より本件溝に通じている下水に排水するようになったこと。ところがこの自噴はしばらくしても停らず、右熱湯を右下水に排水する以外の方法を速かにとることもできないので、同人の指示によりその妻の原口晃が同四四年一二月一六日本件溝県道の管理を管轄する大分県別府土木事務所に行き、右の事情を話してその措置を相談し、右熱湯を安全な場所にまで導くためのパイプを自らの費用で本件溝内に付設することの許可を求めたこと。同事務所の道路監理員である職員はこの相談を受け、更に本件溝に熱湯が流れていることを見たうえ、本件溝に熱湯を流すことも、また本件溝内にパイプを付設して安全な場所まで熱湯を運ぶことも許されないし、本件溝に蓋をすることもできない旨答えたこと。そこで原口利郎は少し離れた水路までパイプを通じそこに熱湯を捨てようと計画したが、そのためにはこの水路の水を農耕に利用している農家の承諾およびその水路に至るまでの市道を利用するための別府市の許可を得ることが必要であったので、直ちにこの承諾、許可を得るように努力し、農家の承諾を同四五年一月三一日に、市の許可を同四五年二月四日に取得し、そのパイプ付設工事を業者に請負わせたこと。原口利郎はこの工事が完成する迄は、激しく自噴して来る熱湯を他に処理する方法もないのでそのまま本件溝に通ずる下水に排出しているうち、本件事故が発生したこと。

7  被告の別府土木事務所の職員は、右6のとおり同四四年一二月一六日に本件溝を現認したほか、その後も他の事務処理および工事現場への往復時に本件事故現場を通行し、湯煙の立っていることも見て、本件溝に熱湯が流れていることも知っていたこと。

8  被告は右6のとおり本件溝にパイプを付設することを許していなかったが、本件事故発生を知り急いでその四日後の同四五年三月二五日被告の別府土木事務所長道路監理員は道路法七一条にもとづき原口利郎に対し他に適切な措置がとられる迄の臨時措置として本件溝にパイプを付設して熱湯を安全な場所まで導くように命じたこと。原口利郎はこれに応じ直ちに自己の費用でパイプを付設したため、その後は本件溝に熱湯は流れていないこと。

9  本件事故現場よりすぐ北側でやはり熱湯の流れている溝には本件事故前には蓋はなかったが、本件事故後に板で簡単な蓋がなされたこと。

そこで右認定事実の下で、本件道路溝の管理に瑕疵があったか否かを判断する。

道路面を通行する者が道路面外に転落して死傷等の損害を生ずることを防止する措置をとらないことが、道路管理者の管理の瑕疵になるか否かは、一般的には、その道路より通行者が道路外に転落する可能性が高いか否か、又は、その道路より転落したときの被害が死亡又は重大な傷害に至る可能性があるか否かによって定めるべきであり、その何れかの可能性が高い場合は右の防止措置をとらないことが道路管理の瑕疵になると解すべきである。道路巾が急に狭くなっている場所にガードレールを設置しないこと(東京地判昭四二・三・二七下民一八・三・二六九の事例参照)は前者の例であり、深い川ににかる橋に欄干が欠けていたこと(岡山地判昭三八・六・七下民一四・六・一一一八の事例参照)は後者の例である。

これを本件にみると、本件道路に接する本件構は本件道路の路面より僅か五〇センチメートルの深さではあるが、ここに摂氏八〇度の熱湯が流れていたのであってここに転落すればこの熱湯によって大火傷をすることは明らかで、現に原告智重は重い火傷を負っているわけであるから、本件国道よりこれに接する本件溝に転落したときに転落者が重大な傷害をうける可能性は極めて大であったと認められる。そのうえ、本件県道は交通量も多かったから、通行中の学童、幼児などが走行する大型自動車などを避けるため道路わきに寄りすぎまた本件溝から発する湯気に視界を奪われて本件溝に転落する可能性も低くはなかったというべきである。このように通行者が本件溝に転落する可能性も低くはなく、転落すれば重大な火傷を負うことになるのであるから、本件道路および溝の管理者である被告としては本件溝への転落受傷を防ぐため本件溝に蓋をするか少なくとも原口利郎に対し本件溝に熱湯を安全な場所まで導くパイプを付設することを許して事故発生を防止すべき義務があり、これがなされなかった本件道路溝の管理には瑕疵があったというべきである。

被告は、本件県道の道路そのものは安全な機能を有するからその管理に瑕疵がないと主張するが、道路はそれによって自動車、歩行者等の安全な通行の用に供するものであり、法も管理者にさく等の設置を義務づけている(道路法三〇条一項一〇号、道路構造令三一条)のであって、道路面自体に瑕疵がなくとも、道路面外への転落、危害発生防止設備がない場合に、管理に瑕疵がないということはできない(橋の欄干につき前記岡山地判、ガードレールにつき前記東京地判参照)。

また被告は、本件溝に熱湯が流れるようになったのは原口利郎の違法な行為によるものであり、被告はこれを避止し、または事故発生防止に適切な措置をとった旨の主張をしている。確かに本件溝に熱湯を流出させたのは原口利郎であって被告ではなく、また道路法四三条は一般人に対しその一、二号に定めるような道路交通に危険を生ぜしめる虞のある行為を禁じて一般人にも消極的ではあるが、道路交通安全確保義務を負わしていることは、被告の主張するとおりである(もっとも原口利郎が熱湯を流出させたことについては相当程度やむをえない事情のあったことは右6に認定のとおりであるがこの点はここではさしおくことにする。)しかしながら、一般人が違法に道路交通に危険を生ぜしめた場合であっても道路管理者はこれを放置してよいものではなく、速かにこの危険状態を除去すべき義務があるというべきであり、特に本件においては右6ないし9認定のとおり同四四年一一月に本件溝に熱湯が流され始め、同四四年一二月一六日以降は本件溝県道の管理を管轄する被告の土木事務所職員が本件溝に熱湯が流れていることを知りながら、被告は本件事故の同四五年三月二一日に至るまで事故の発生を防止する適切な方法をとらなかったのであるから、(この点で被告の引用する前記和歌山地妙寺支部判は事案を異にする)本件溝内の熱湯が原口利郎によって流されたものであったことにより、被告の責任が免ぜられるわけではない。

また被告の右土木事務所の職員は原口利郎の妻に対し本件溝に熱湯を流すことが許されない旨を告げ、その後も本件事故現場付近の本件県道を通行していたことは右6、7に認定のとおりである(なお、別府市内において他に火傷をするような熱湯を溝に流出させている者はいない旨の被告の主張は本件全証拠によるも認められない)。しかしながら、原口利郎としては熱湯を本件溝に通ずる下水に流すことを直ちに止めることは困難であり、右土木事務所の職員もこれを知っていたのであるから、ただ単に原口に対し熱湯を本件溝に流すことが許されないと告げたのみでは直ちに熱湯が流れることが止められる可能性は殆んどなく、また現にその後三ヶ月もそのままであったわけであって、右土木事務所職員の右措置をもって管理に瑕疵がないということはできない。本件事故後直ちになされたように本件溝の中に熱湯を誘導するパイプ管を仮に付設することを認め、または付近の溝についてなされているように簡単な蓋を本件溝にかぶせることは被告にとって極めて容易なことであった筈であり、本件についてこれをなさなかったことに被告の管理に瑕疵があったことは明白である。

二、因果関係

被告の本件道路溝の管理に瑕疵があったことは前記認定のとおりであり、本件溝に蓋がなされているか、熱湯をパイプで安全な場所まで導くことが許されておれば原告智重が本件の火傷を負わなかったこと、右瑕疵と同原告の右火傷との間に因果関係のあることは、前記認定事実および争のない事実により明らかである。

被告はこの間に法律上の因果関係がないと主張し、原告智重が自転車で本件県道を進行中その前方に視野をさえぎる湯気が立昇っていたことは当事者間に争がなく、同原告が道路端に近い部分を進行していたことは≪証拠省略≫により認められるところである。しかしながら、原告智重が転落したのは右の湯煙が急に目の前に吹きつけて来て視界をさえぎられたのが理由であることも当事者間に争のないところであって、右事実が過失相殺の理由とはなっても、管理の瑕疵と同原告の火傷との間の因果関係を否定するものとはならず、他に右の因果関係を否定するに足る証拠はない。

三、原告智重の損害

つぎの1、2の事実は当事者間に争がなく、3ないし5の事実は≪証拠省略≫によって認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  本件事故により原告智重は腹部、臀部、右大腿下腿部に大火傷を負い、直ちに近くの新別府病院に入院して同四五年三月二七日まで入院治療をうけ、同日自宅近くの渡辺医院に転移入院し、同月二九日には同医院を退院し自宅で友岡医師の往診治療をうけたこと。

2  同四五年五月三〇日には右火傷は一応の治癒をみたが、右大腿下腿部に大きな瘢痕型成の醜状を残し、より以上の肉の盛り上りを防ぐために弾力包帯をきつく巻きつけていなければならず、この瘢痕型成はその皮膚面積が広いため整形手術も不可能であって、後遺症として一生原告を苦しめることになるであろうこと。

3  原告智重の火傷は第三度の重さにあたり、その体表面の十数パーセントに及んでいたこと。

4  右火傷により型成された瘢痕ケロイドは主として右大腿下腿部に大きく残り、特に右膝右側周辺部分は肉が盛り上りひきつり、他の部分と色が異っていて醜状を呈しかゆみを感じることもあること。

5  原告智重は本件事故当時八才三月の男子であって、余命の六二年間この瘢痕ケロイドから解放されず、特に小学生の間は半ズボンを着用することが多いので恥ずかしい思いをすることも多いであろうこと。

右認定の事実のほか、前記一、二認定の事情、その他本件に現れた諸事情(原告智重の過失を含む)を考慮すると、原告智重が本件事故により受けた精神的損害に対し被告に九〇〇、〇〇〇円の慰謝料を支払わしめるのが相当と認められる。右以上の慰謝料を相当とせしめる事実は本件全証拠によるも認められない。

≪証拠省略≫によれば、被告は本件損害賠償債務を否定していたので原告智重は本件訴訟を提起せねばならなかったが、同原告は本件訴の提起維持を原告訴訟代理人弁護士に委任し、その報酬を四〇万円と定めたことが認められる。そこで同原告の慰謝料認容額が九〇〇、〇〇〇円であること、本件訴訟において被告はその責任原因を強く争っていたこと等、本件に現れた諸般の事情を考慮すると、右弁護士報酬のうち一三〇、〇〇〇円を被告に賠償せしめるのが相当と認められる。右以上の額の弁護士報酬を賠償せしめるのが相当とせしめる事実は本件全証拠によるも認められない。

四、原告信夫の損害

原告智重の父である原告信夫は、智重の本件事故により受けた火傷の治療費として三六、四二四円、付添料として五四、〇〇〇円、計九〇、四二四円相当の損害を受けたことは当事者間に争がない。原告智重には本件事故発生につき幾分の過失のあったことを考慮し、右の損害のうち八〇、〇〇〇円を被告に賠償せしめるのが相当と認められる。

五、結論

以上判断のとおり、原告らの請求は、原告智重に金九二〇、〇〇〇円、原告信夫に金八〇、〇〇〇円、およびこのうち弁護士費用の賠償を除くその余の部分に対する同四五年一一月一日以降各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この部分を認容し、その余は理由がないからその部分を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井関正裕)

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